キャンディコール

キャンディコール

 

 

暗くなる空を見ながら、俺、渋谷有利はただ柄にもなく夢を見たんだ。

 

 

『貴方が、俺を恨むなら・・・』

俺の大事なヒトはポツリと呟く。

『それでもかまわないのですよ、ユーリ。それで貴方が休まるのなら』

俺は泣いた。わけもわからず泣いた。

そんなことはないと今すぐに叫びたいのに声が出ない。くるりと振り返り闇に消えてゆくその人を追いかけようと手を伸ばす。いや、正確には伸ばしたつもりだったのだが、身体がいうことを聞かない。

コンラッド、俺は空回りしかしない唇を開く。

涙が止まらない。

苦しい。

痛い。

悲しい。

『さよなら、ユーリ。大好きだよ』

いつもの人好きする、でもどことなく裏のありそうな笑顔を向けて彼は言う。

大好きだというなら、あんたはどうして俺を置いていくの?

その言葉はやはりつむぐことはできなかった。

大好きだよ、俺も。

本当に。

好きだ。

好き。

・・・コンラッド・・・。

 

 

「ユーリ、ユーリ起きてください」

突然響いた声に俺はあわてて目を開く。目の前には夢の中で何度も渇望した彼の笑顔。

手を伸ばして触れてみる。

暖かくて、気持ちが良かった。

「ユーリ、何してるんですか?

明らかに困惑した声。確かにいきなり顔を触られたら驚くよな。

それでも、やめる気はない。

だって、幸せなんだもん。

「・・・ユーリ、あんまり俺を煽ると大変なことになりますよ」

下を向いたコンラッドはただ小さな声で言う。

煽ってなどいないよ、あんたがそこにいることを証明たしいんだ。

茶色くて、ほかの誰も持っていない星が散った瞳。短そうで長いまつげ。整いすぎないのにバランスがいいパーツ。その眉の傷。

俺の大好きなヒト。

窓の外はもう真っ暗。ひんやり響く夜の冷たさ。

布団もかけず眠りこける俺を心配してコンラッドは起こしてくれたらしい。

窓の外には星が光る。

あぁまるであんたの目みたいだね、コンラッド。

そういったらあんたはなんて返すかな。喜んでくれるかな。

「ユーリ、愛してる」

呟く愛。

いつも余裕ぶった顔をしているけど俺は知ってるんだ。あんたが愛してるって言うとき必ず俺を抱いた手に力がこもるってこと。

嘘はついてないっていうしるしだと思うんだ。

俺も、あんたのこと愛してるよ。

力強い腕、頼れるすべて。

あんたがいてくれて本当に良かったよ。

触れられる。

それだけで幸せなんだよ、こんな俺でも。

逢ってから恋に落ちるまで時間なんてかかならかった。

思い出が多くて、ずっと長い間あんたといたきがするよ。

いつもいつも困ったときはあんたが傍にいて大丈夫ですか?陛下って尋ねてくれるんだ。

「ユーリ」

あまり好きじゃなかった名前。

でも、あんたがつけてくれて、その声で呼んでくれるのなら俺は何度生まれ変わってもこの名前でいいよ。

コンラッド・・・大好きだよ。

 

 

「っぁ!!!

見渡すと闇の世界。

頬を伝うのはいく筋もの涙。とめどなくあふれるのは、堪えようのない嗚咽ばかり。

そう、俺は柄にもなく夢を見た。

あんたはいつもどおり微笑んでた。

「コンラッド・・・」

夢の中で一度も呼ぶことができなかった彼の名前。今ここで呼んでみても何の役にも立たないことぐらい分かってる。

だってあんたはここにはいないのだから。

もう、俺の横には立っていないのだから。

あんたの記憶はいつか薄れるかもしれない。それでも、愛してくれた真実は変わらないのだ。

結局俺たちが共に過ごしたのなんて短い期間なんだよ。

逢ってから恋に落ちるまで時間なんてかかならかったから気づかなかったけど。

思い出ばかり空回り。

 

 

思い出は、現実より甘い。

甘さを求めて呼ぶ俺の声、キャンディコール。

 

 

 

 

END

 

 

コンラッドがシマロン行ったのが分かってすぐぐらい。その前までは、きっとコンラッドがなくなる夢とか見てしまうのでしょう。