貴方に抱かれまわる世界−2

貴方に抱かれまわる世界−2

 

 

「愛してる、ユーリ・・・」

コンラッドがそう呟いたのを合図にどちらからともなく口付けを交わした。

長いこと交わしていなかった口付けは、甘くて切ない味。そして、記憶の中の恋人の味そのものだった。

「ん・・んん・・・っ・・・好き・・・」

口付けの合間にも、ユーリはコンラッドに愛の言葉を囁く。普段あまりユーリのほうから気持ちを伝えてくれることがなかったからコンラッドは嬉しくて。

絡める舌、熱く閉じたままの眼に映るのはいとしい相手の笑顔。幸せな時間、というのはきっとこういうことをさすのだと思う。何の心配もしないでただお互いよりそって相手のことだけ思っている時間を。

ユーリは熱い舌に口中を舐め回されて、さらにきつくコンラッドを抱きしめる。

たまらない。気持ちがいい。

こんな夢を見るなんて、なんて自分はコンラッドに飢えているのだろう、ユーリはただ頭の隅でそんな風に思う。こんな熱いキスを夢の中では交わしたことなどないし、そんないやらしい夢さえ見たことがなかったから。

それでも、あまりにもリアリティあふれる夢の中、浮いてしまいそうなほどの気持よさと幸せを感じる。どうして、現実にならないのだろう。こんなにも愛しているのに。

ユーリは、ただ夢と現実の差を感じて瞳の色を濁らせた。

「ユーリ?どうかしましたか?」

そんな些細なことも、この男には隠せない。夢の中でさえ忠実に彼は優しい声をかけてくれる。

これが夢じゃなければ。

これが夢じゃなければ・・・。

コンラッドはユーリの瞳に光が消えたことに、とても心配を感じた。なた、何か悩ませてしまっているのかもしれない。やはり、今日は逢いに来るべきではなかったのだろうか?コンラッドは本気で思う。それでも、絡めあう舌は熱く混ざり合いそうなほどで彼がひどく求めたユーリの味がしたから。

危険を冒してまで、飛んできた地球。ユーリに一目逢いたくて、一度でいいから抱き合いたくて。

ユーリは裏切った自分に今ここであっていることを夢のように思ってくれている。正直、コンラッドさえも自分で仕組んだにもかかわらず実際ユーリを目の前にすると夢みたいな気分だった。

愛してると囁いて、口付けをせがんで。

恋人として何もかもめちゃくちゃにしたいほど愛したい衝動、逢いたくて片時も離したくない発作、誰の目にも触れさせたくないほどの束縛心。

しかし、また今夜が終われば自分は眞魔国の敵国大シマロンへと帰らなくてはならないのだ。このままユーリをつれてどこかに逃げ出してしまいたい、いつまでも共にいたい。

かなわない希望、戻らない過去。

「なんでもないよ・・・コンラッドと一緒にいるだけでいい」

ユーリはただ眼に涙をためたまま微笑んだ。

うれしい。

うれしい。

幸せ。

心にあふれるのは、現実を完全に切り離した幸せだけ。

逢いたいとあんなに泣き喚いて、うめいて、夢見たのだから、幸せだけ追ってもいいじゃないか。

「ん・・・」

ちゅっと音を立てて再び唇を重ねれば、涙も夢もどうでもよかった。

お互いを渇望しあい、愛だけ望めばいい。二人はただ言葉もなく抱き合い口付けを繰り返し見つめあう。それだけで本当によかったのだ。

きつく抱きしめる腕に、熱い身体。

もつれ合うように二人して倒れこんだ先は、標準的で男の子らしいベッド。二人の体重をささえてベッドはぎしぎしとうるさく鳴いた。

「ユーリ・・・」

名前を呼ぶのさえままならないほど。剥ぎ取るようにコンラッドはユーリの服を脱がせる。ほんの少し上気し、赤くなった体を抱き寄せればかつての感覚がよみがえった。

「コンラッド・・・」

いつもなら恥ずかしがるユーリも、ただ顔を朱に染めながらもコンラッドにすべてを任していて。ましてや、自分からコンラッドに口付けて強く抱きつく。

邪魔なユーリの衣服をすべてベッドの下に放り投げるとコンラッドは微笑んだ。

「・・・綺麗です」

日焼けの残る肌に口付けをするとユーリは甘く啼いた。

体が覚えている相手の感覚に、ただ相手がそこにいることを実感し歓喜する。二人はただお互いの名を呼んで確かめて呟くのだ。愛していると。

あんたがここにいる。

貴方とここにいる。

それだけでいいのだと。

 

 

ぴちゃぴちゃというなまめかしい湿った音。

強要することがあまりないため、二人の行為ではあまり行われないことであったが。うわめづいかにユーリはただ、相手が微笑んでくれるからうれしくてその行為に没頭する。

いつものユーリなら、こんなこと恥ずかしくてできないはずなのに。夢だと思い込んでいるユーリはいつも以上に大胆でコンラッドを驚かせ、そして喜ばせた。

「ん・・・ふ・・・」

口に入りきらない質量、口で届かないところは手のひらを添える。

幼稚で、あまり上手とはいえない愛撫。それでも、コンラッドを熱くするには十分すぎて。自分から求めるユーリなどあまりみたことがないし、たまに自分の顔を見上げてくる黒い目が潤んでいてかわいらしい。

まだ慣れきっていない行為、うぶで純情。

どうしてこんなにかわいいのだろう。

もうどこが好きだかいちいちあげられないほどに、理由さえ忘れてしまうほどにユーリが好きで好きで仕方がない。

愛しているという言葉では伝えきれないほどに。

「っ・・・・んん・・・」

苦しげな声。コンラッドが心配そうに大丈夫ですかといっても頑なにユーリはコンラッド自身に舌を這わせる。恥ずかしすぎてどうしようもなかったけども、これはユーリが決心したことだからかえるわけにはいかない。いつもいつも気持ちよくしてもらって、いっぱい言葉を愛をもらって。

自分も何か返さなくちゃ、と。

快感に流されそうになる頭で必死に考えたこと。それが、今必死にユーリがしていることだったのだ。

たとえコンラッドがしてくれるだけのことが返せなくても・・・。

「ユーリ・・・気持ちいいですよ・・・」

かすれたコンラッドの声がユーリの耳に届く。

ベッドに腰掛けているコンラッドに跪くような形でユーリは一心不乱にコンラッドに快楽をあげようと努力する。

コンラッドはそんなユーリの黒髪に指を絡ませながらゆっくりと梳いた。熱い舌で舐められて、時折うめく声はしっかりとユーリに伝わっている。

「そろそろ、貴方の中に入れてもいいですか・・・?」

ユーリはコンラッドの声に黙って頷くとコンラッド自身から口を離した。

コンラッドはベッドの下に座っているユーリを抱き上げると自分のひざの上に座らせる。口元で流れたままになっている唾液をそっと拭ってやってからユーリの目元にキスをして。

「コンラッド・・・」

しなだれかかるユーリの体はいつも以上に熱くて、とかだがどれだけ高ぶっているかが分かる。そんな背中を撫でてからコンラッドは舐めた指をユーリの蕾へと突き立てて撫でた。

ユーリは、きつく目を閉じてコンラッドにしがみついたまま暴かれることに耐える。それでも、快感を知っている身体は予想以上に貪欲で指での愛撫にさえ更なるものを求めてすがり。コンラッドはユーリのそんな姿を見てうれしそうに微笑んだ。

ぐちゅぐちゅと響く淫靡な音は、見慣れた自分の部屋にこだましてゆく。ユーリは、どうしてこんな夢を見ているのだろうと思いながらも、コンラッドがくれる快感に身をよじらせるだけ。

「っあ・・・ぅ・・・」

こぼれる声の音量も、気にならないほどに夢中になって。

ユーリは目の前のコンラッドの着ているシャツのボタンを一つ一つはずしていく。コンラッドはユーリが何をしたいのかが分からなかったけども手を休めることなくユーリにはしたいようにさせた。

震える指先は言うことをきかなかったが、何とかシャツの前をくつろげるとユーリはコンラッドの裸の胸に頬を摺り寄せる。

とてもとても温かくて広い胸は、コンラッドを実感させてくれて。ユーリはたまらなく幸せだった。

いままで、誰ともできなかったほど幸せそうにしている顔。渇望して渇望してついに手に入れた相手はいつもどおり求めたとおりやさしい。

「ユーリ・・・」

しばらく時間をかけてすっかりと解けきった蕾にコンラッドは猛った自身をうずめる。最初は少しきつかったけども、やはり回数を重ねただけあって後はすんなりと進入を許可してくれた。

大きなものが体を埋める満足感にユーリは背中をのけぞらせて悲鳴のような嬌声をあげる。

「っあぁ!!」

いきなり動いては悪いと思っていたのだが、長い間ユーリを求めすぎたせいかコンラッドにはもう歯止めが利かないほどで。ユーリの細い腰をつかむと強引に浮かせては、深いつながりを求めて落とし続けた。

ユーリはもう何も理解していないような顔でコンラッドを強く抱きしめているだけ。閉じることもかなわない赤い口からは唾液がこぼれたまま。コンラッドはそれをなぞるように首筋から舐めあげ、深い口付けを落とす。

口をふさがれたことで満足に声を上げられなくなったのか、ユーリはひどく感じている様子。しっかりと立ち上がったユーリ自身は、だらだらと流した先走りで濡れぼそっている。絡まる舌は、ひどく熱くて脳髄を焦がしてしまうのではないかと思うほど。

とめどなくあふれる汗が、頬の横を伝っていくのをかすかに感じながらコンラッドは何度も腰を突き上げた。

「ふ・・・ぅ・・・っん!」

歓喜に涙を流しユーリは快感だけを追い続けている。

愛する人を快楽を求める獣へと追いやった瞬間、また自分も欲望へと落ちるだけ。

二人を乗せたベッドは、ぎしぎしとうるさくきしみながらコンラッドが刻むリズムを明確にあらわす。やっと、長い口付けを解くとユーリはうつろな瞳でコンラッドの名を呼び続けた。

「・・ぁ、大・・・好きっ・・・!」

耳を撫でる甘い嬌声。これを引き出しているのは自分だと実感するほどにいとしくてたまらなくなる。

コンラッドは、邪魔になったシャツを破るように脱ぎ捨てると裸の胸でユーリを強く抱きしめた。

「ユーリ・・・!ユー・・・リっ!」

かすれた声でお互いを呼び合えば、まるで二人で違う世界に浸るよう。

甘くて切ない恋にただ、うれしくて悲しくて。

持ち上げられて落とされて、深く抉られて震える指を重ねる。目も眩む快感、無理やり瞳をこじ開けてコンラッドの顔を見つめれば快感にこらえながらもユーリに微笑む整った顔。

何もよりもかっこいいその顔はいまや、汗にぬれ眉をひそめている。ユーリを求めて、ユーリを感じている証拠。

終わりなど感じないぐらい今は、熱い体を重ねて名前を呼んで愛を囁けば・・・。

少しずつベッドがきしむ音がずれてゆく。コンラッドに限界が近いということだ。ユーリもコンラッドを抱きしめて背中につめを立てて言葉になっていない言葉を口からこぼすだけ。

コンラッドはユーリの首筋に強く吸い付いて軽く犬歯を立てる。もう何をされても快感しか感じていないユーリはその刺激にも身体を震わせて喜んだ。

「っ・・・」

コンラッドは小さくうめいてその身体を抱く。

「ぅ・・・あ、あ、あ、ぁあああああ!!!」

ユーリは一際大きな声を出して、落ちるようにして熱い密を放つ。コンラッドも、射精にもとなう内壁の収縮に低い声を上げユーリに白濁を叩き込んだ。

 

 

                   To be continued