口付けは蜜より甘く、罪より苦い

口付けはより甘くより苦い

 

Act.2 都合だけは味方

 

 

行為の直後の熱いからだをだきしめてコンラッドは収まらぬ熱を冷まそうとする。

愛しい存在は眉をひそめたまま意識を失っていた。全ては自分が無理な性行為を望んだせいだ。

コンラッドはそっとユーリのなかから自分の残液にまみれた自身を抜く。どろりと溢れるのは、コンラッドの歪んだ愛の証し。

ユーリの体を優しく抱き上げるとコンラッドは自室に備えられている浴室まで向かった。

 

 

気を失ったユーリを見付けたのは単なる偶然だった。眞魔国との国境近くの海岸に流れついていたのである。

どうやらこちらの世界に飛ばされたとき溺れて沢山の水をのんでしまったようでしまったようだ。コンラッドは慌ててだきよせてくろいかみをかくしながら城にある自分の部屋にかつぎこんだというわけ。

見付けたのが自分で本当に良かったと思う。もし、ここ大シマロンの人間に見付かっていたら殺されていたか、もしくは開戦のための人質として酷い扱いを受けていたにちがいない。

だから、冷えたからだを暖めてずっとベッドに寝かせていたのだった。もちろん、ユーリがめをさましたときにかけるためのたくさんのいいわけも用意して。そして、こっそりと眞魔国におくるつもりだった。

だがしかし。

目覚めたユーリはいっさいの記憶を失っていたのだ。それでは眞魔国にさえ送りつけられない。なぜなら自分は立場上ユーリを眞魔国までちゃんと送ることさえ出来ないのだから。なんの知識もないユーリをおくりだすわけにもいかない。

だから、手元に置くことにしたのだ。幸いこの部屋には医療にかんする本もあるし、戦地のために医学の知識も大分ある。だから、このままユーリの記憶を取り戻して地球に戻そうと思っている。

だけど。

ユーリのことだからこのまま部屋で黙って俺の部屋に隠れていてくれるはずがない。そこが彼らしい好奇心の欠点だ。

だから、あんな方法でユーリに俺を絶対的に恐れさせなくては、と思ったのである。あまりにもとっさのことで正直自分でも今更なぜあんなまねをしたのかさえ曖昧で。

…本当は自分は怒っていたのかもしれない。

ただ、ユーリに自分の言うことを守らせるためだとか、回りの人に怪しまれないようにするためだとか、そんな都合ばかり並べたてユーリをこの手で欲望のままに抱いた。

でも。

でも実際俺はユーリが、あんなに俺をみてくれていたユーリが自分のことを忘れてしまったことが嫌だっただけなのかもしれない。たまらなくつらくて、信じられなかったのかもしれない。だから、全てを否定したくて、最愛の魔王陛下を辱めたのだ。

なんて罪深いのだろう、自分は。

都合だけは皮肉なものにしばらくは俺の味方でいてくれる。その間俺はただ、冷たい顔をして満足に愛の言葉も囁けないままユーリのことを抱くだけなんだ。

もう、後戻りはできない。ユーリは俺を完全に危険なものとして見なしているはずだ。

だから、せめておもいっきり俺のことを嫌って。それは俺への罰、罪深い俺への…。

 

 

意識のないユーリの体は相変わらず華奢で力を込めたらおれてしまいそうだった。日焼けの残る肌にそっとキスをしても反応など帰ってくるはずもない。

昔ならば抱いて風呂に向かおうとするだけで暴れて体を洗ってあげるのもひと苦労だったのに。もちろん恥ずかしがるユーリが可愛らしくて嫌がってもやっていたきがする。

思い出すのは幸せすぎる記憶。もう戻れないかもしれないのに。

それでも、意味のないないものねだりは続いてゆくから。そっと抱いたユーリを浴槽に座らせてやると自分も乱れた服を脱ぎ捨てる。

ユーリは完璧に気を失っているので気を抜くとすぐにずるりと湯船の中に倒れてしまいそうになる。だから、慌ててコンラッドはシャワーの栓をひねり抱き起こしたユーリをあらいながしてゆく。

体中に広がっているのは自分がつけた証。

白い肌に映える赤いそれは、美しくそれでいて痛々しくて。ごめんなさい、ごめんなさい、何度も心の中で謝る。

だけど、いくらユーリが気を失っているとはいえ口に出せない自分。あきれるほどに浅ましく、馬鹿ばかしくてどうしようもなかった。

やわらかくあわ立てた石鹸で体を擦るたび、石鹸と共に自分の穢れさせたものが洗い流されて暮れないかとさえ思ってしまうほど。

むせ返るような、湯気の中抱きしめた体はしっとりと甘い。もう一度抱いてしまいたい衝動に駆られながらもコンラッドは必死にユーリを綺麗にすることだけに力を入れた。

どうしてこんなことをしてしまったんだろう。

後悔の念だけが、強く強く押し寄せる。すべてを説明して、おとなしく俺の部屋で何とか記憶への治療をすることになっていれば。

こんな思いなどせずに、そしてさせずに過ごせたかもしれないのに。悔やむのは、今正しいと思う道に進めなかったかこの分岐点にいた自分だ。

「愛してます」

呟いたが、シャワーの音にかき消される。その言葉はこの風呂という空間にさえ響くことはなかった。

意識のない体を抱きしめて、感じるのはかつてのユーリの肌のぬくもり。熱いシャワーに打たれながら、コンラッドはユーリに口付ける。

反応など、返ってくるわけもなく。

ただ、口をふさがれたことに息が荒くなるだけ。

むなしくて、悲しくてどうしようもなかったけども、濡れた手でかき抱いて、口中を舐めまわすようなキスを仕掛ける。

好きで、好きでもうとめられない。

ただし、これからの自分を待つのはユーリが地球へと戻るまでのわずかな時間と、愛のない快楽だけ。望まないほどに、ほしいだけの感覚をユーリの体はコンラッドへと与えるのだ。

頭に降りかかるシャワーは頬に幾筋もの道を作りながら顎を伝って流れ落ちる。

個人用にしては広すぎる風呂の中、シャンプーを使ってユーリの頭を必死に洗う。もう何もかも、この自分の手からユーリを守りたかった。

どうしてこんなにも自分に有利な立場になってしまったのか。

それに、会いたいという望みはかなえられているのに記憶がないという絶望に何もかも打ち消される。

自分の中の矛盾した考えと欲望の中、頭を抱え後悔の念にとらわれているだけ。

 

 

                   To be continued