気が付けば焼け野原−2 仕事を終え立ち上がると、窓の外はもうブルーに染まっている。夜が完全に訪れていて、つけたろうそくの明かりが異様にまぶしく見える。コンラッドは、ただしばらく薄暗い部屋の中で立ち尽くす。下手に動いたら涙なんてばかげたものがこぼれてきそうな気がしたからだ。 そして、しばらくそうしたあと、自分の部屋へと向かう。 廊下も同じように暗く、窓の外のそらには星が瞬いていた。夜になってしまった、コンラッドの見上げたまま考える。また、今晩もユーリをこの手でかき抱くのだ。この、歪んだ欲望のままに。 この廊下を歩くたびに、きっと自分はひどい表情をしているだろう。コンラッドは。そう思いながらも部屋までの道を一歩一歩着実に進んでゆく。もう、ここまできたらとまることはできない。 しかし、毎晩のようにユーリが眠ったあと部屋にある医学書などを読み漁っているのに一行に記憶を改善する最良の方法を見つけることは出来なかった。必死に探しても、いつも見つけることはない。このままユーリをここにおいてもいいのかというまた馬鹿なことをかんがえながら、また本に目を落とす。毎晩そんな作業を繰り返しているのだ。 誰かに相談することもできない。 確かに今はここ大シマロンに身を寄せているということになってはいるが、コンラッドを信用し信頼しきっている人などあまりいないのだろう。あくまで敵国から来た人間なのだから。 そして、コンラッド自身誰かに信頼を示すということをこの国に着てから行っていないのだから。 そんなことを考えながら、コンラッドはついてしまった自室のドアをいつものように無表情で開いた。 そのときのこと。 ビュウ、と強い風がコンラッドの短めの髪の毛を揺らした。 窓が開いている。 そう感じたとき、コンラッドはひどく慌てて窓のほうを向く。そこには、黒い髪を風に揺らせたユーリがいて。 窓の枠の上に立ち体を外に乗り出して。 近くに生えた木に伸ばされた腕。 その姿を見て、コンラッドはユーリを後ろから抱きしめる、というよりは引き摺り下ろすに近い動作で窓の近くからベッドの上にこれまた投げるに近い動きで横たわられる。突然のことにユーリはパニックになったように体をばたつかせたがコンラッドには何の抵抗にもならなかった。 「逃げるつもりだったんですか」 コンラッドの口から出るのは、ひどく冷たい言葉だけ。 ユーリは強く顔を横に振って違うということを言いたげだったけども今の姿を見るだけだと、それは否定できない事実。コンラッドは、嘘はつかなくていいですよ、と底冷えするような声で囁いた。 「違う、違うってば!!」 ユーリは何度もそう叫んだけども、コンラッドにはすべて嘘にしか聞こえない。もう、頭に血が上りすぎて自分でも何をしているかよく分からないぐらいだった。 とにかく、ユーリはここから逃げたいのだ。 自分からできる限り遠くに行きたいのだ。 当たり前で、ずっとそうだと信じていたけどもいまさら見せ付けられると死にそうなほど苦しかった。あまりにも慌てていたからユーリが、外の人の目に付いたかどうか確かめる時間すらない。そして、窓さえ閉めることなくコンラッドはユーリが着ていた自分の服を破るように脱がすと噛み付くように首筋にキスを落とす。 「違う・・・逃げるつもりなんてなかったよ・・・」 その合間に聞こえるユーリの呟き。ユーリはぼろぼろと涙をこぼしていた。 覇気がないのは、抵抗しても叶わないということを気づいたからだろうか。コンラッドはそんな呟きも無視をしてユーリの唇に自分のそれを強くあわせた。相変わらず、ユーリと交わす口付けは甘くて切ない味がして。 むさぼるように舌を差し入れればユーリは目に涙をためてもがいた。しかし、今はとてもとめられる気分ではないのだ。もう、どうしようもないぐらい悲しくて腹立たしくて、表現できる言葉がないほどにいとしくて。 「んん・・・ぁ・・・ん」 ユーリはうめき声にも似た嬌声を上げながら口付けを交わされている。コンラッドは、ただユーリの服にかけた手を止めることなく、ユーリがまとうすべてのもの脱がした。確かめるようにその肌を撫でると、いつものようにさらさらで手になじむほどさわり心地がよかった。 口付けは依然交わしたままで、といてもほんの少し角度を変えるためだけ。ベッドとコンラッドに挟まれたユーリは身動きすら叶わなくて涙を流しているだけしか出来ないようだ。 「ぅ・・・・は・・・」 しかし、それでも敏感な肌を撫でればそれなりの反応が返ってきて、コンラッドを喜ばせる結果になっている。コンラッドは、弁解など聞きたくもなくて口をふさぎ続けた。 ユーリの口の端からお互いの唾液が混ざり合ってこぼれ、シーツにしみを作っていてもかまわずむさぼるその赤い唇は、底なしを快楽を与えてくれるような気さえ今のコンラッドには感じられる。覚めない夢を見ていたいほどに、愛すべき主君の体は儚すぎた。 コンラッドが長い長い口付けを解いたころには、ユーリはとろんとした目をしたままぜぇぜぇと苦しそうに空気を求めていて。涙が瞳を赤く染め、より艶かしく、扇情的な色気を放ち続ける。 「も・・・や・・・」 ユーリはコンラッドを見つめようともせず、ただ横を向いたまま静かに涙を流していた。コンラッドが完全に立ち上がったユーリ自身をしごく手をやめないので、ユーリは何度も体を震わせながらもされに耐えているよう。 ああ、好きだ好きだ好きだ。 とめどない感情。 矛盾に矛盾を重ねた関係、欲望が捻じ曲げた性交。おかしいぐらいにまで、求めるのはユーリの体。 狂おしいその体を抱きしめて、叫べない愛を心に誓う。 俺を嫌って。 俺から逃げて。 でも。 でも、やはり恋人同士でいたかった。 俺の手の中だけで美しく咲いて欲しかった。 俺を愛して欲しかった。 コンラッドは恐怖に引きつった顔を浮かべるユーリに、自嘲気味な笑みを向けてからゆっくりと自身をユーリの蕾の中にうずめていった。 「あ、あ、あ・・・!!」 ずぷずぷと湿った音が微かに響く。開いたままの窓からは、夜風が吹いてコンラッドの背中にしみた。ユーリが風邪を引かないようにと抱きしめれば、つなげあう途中だった腰で軽くついてしまいユーリの体が微くんと震える。 「っ・・・あぁ」 密着させた体は、ひどく熱くて窓のことなどすぐに頭から抜けてしまう。もう誰も外を歩いてなんかいないだろうから、こんな微かな声誰かに届くとは思えない。ユーリの手はいつものようにコンラッドの背に廻ることはなく苦しげにつかんだまま。断固、恋人のような行為は出来ないようだ。・・・コンラッドと昔していたときのことを完全に忘れてしまったからかもしれない。 「・・・嫌い、あんたなんか・・・」 ほら、ユーリは自分のことが嫌い。 嬌声の合間に呟くユーリに、コンラッドは逆に笑みを浮かべていることしかできなかった。嫌われていなければ行けない存在なのだから。 き ら い 頭の中で悲しいぐらいその言葉を気にしている自分がいる。 分かってるのだと、何度も言い聞かせる。 わかってる。 分かってるんだ。 こうなる覚悟ぐらい出来ていたはずなのに、いつからこんなにも自分はもろい生き物になったのだろう。ユーリのこととなると、自分が今までどおりに振舞っていられないのだ。 「そうですか・・・嫌いだから、どうだっていうんです?」 口をついてでる言葉は、明らかに嘘。だけれども、ユーリを欺くには十分すぎるぐらいのはずだ。 「どう・・・でもいいっ・・たた、あんたが・・・っぁ・・・」 嫌いなんだ、とユーリは泣いた。 実際コンラッドもなきたいとさえ思った。 コンラッドは深々とつないだ腰でいつもよりも乱暴に突き上げる。そうでもしないと悲しくてどうにかなってしまいそうだったから。いとしいユーリの体は、何もかも手に取れなくするぐらいコンラッドを夢中にさせられるからだ。 「ひっ・・・あっあっ!!!も・・・やだぁ・・・」 痛い、とうめくのが聞こえても、もうコンラッドは止めようともしなかった。ぐっちゃぐっちゃと響く音、ユーリのあえぎ声、お互いの息の音。口づけをして舌を絡めあえば、ぴちゃぴちゃと湿った音が響く。今でなら、ここで交わされているのは。 愛の言葉のはずなのに。 どうしてこんなことになったのだろう。それでも、続いてゆくのは欲望に忠実な感覚だけで。 お互いに上り詰めるまで、そう時間はかからなかった。 情事の終わったユーリの体を抱きしめれば、胸に魔石がついていないことに気付く。自分の持ち物だというのに、やはりコンラッドが渡したものは拒むというのか。コンラッドはそう考えて悲しくなる。ベッドのすぐ脇を見下ろしてみると、青く輝く石が落ちていたから、気を失っているユーリの首にかけてやる。 それでも、またはずすならば自分があずかればいい。 コンラッドは立ち上がりユーリに布団をかけてから、自分の乱れた服を調えた。窓を閉めてからため息をつくと急に疲れがどっと背中に降りかかってきたような気がする。 それでも、本棚から医学書のようなものを取り出すと机のキャンドルだけを頼りに読み出す。あとでユーリが目を覚ましたら厨房に行って夕食を貰ってこようと思いながら、ちらりとユーリの横顔を見た。 「愛してるよ、ユーリ」 聞こえないと分かっているからいえる言葉。 まったく、ばかげているとしか思えない自分自身。それでもやめられない、この生活。 「だから、お願いです。どうか俺を、愛してください・・・」 夜が、部屋の雰囲気を狂わせるから、いつになく弱気になるんだ。哀願のようなこの声も、ユーリに届くことはないのだ。だから、今だけは。 心から、貴方を愛させてください。 END??? あー、自分の萌だけをひたすら追及してみました(笑) “どうか”という言葉は私の脳内好きな単語ベスト10に入ります!!いやぁ、どこまで続くんだこのシリーズ・・・。そろそろ甘いのが書きたいです(涙) |