Act

口付けはより甘くより苦い

 

Act.4.5  籠の中一人

 

 

気が付くと、闇の中だった。

目を開くと同時に意識を失う前に起こった出来事がフラッシュバックのように脳裏によみがえってきて、俺は目を再び閉じようとする。体はきしみ、一瞬息をするのを躊躇うほどの痛みが体を駆け抜けて。

「っぁ・・・」

声にならないような悲鳴をあげた。

広い広いベッドの上、自分ひとりだけの世界。俺をこんなにした張本人はこの部屋の中にはいないようだ。

いつもよりも、手荒く、乱暴に抱かれた。昨日、といってしまうには余り時間がたっていないようだけども。いつも冷たい彼であるが、あのときの行為はいつもとは人が変わったように感情が出ていた、そしてそれは怒りの感情。

何故コンラッドがあんなにも怒ったか・・・それはすぐにわかった。彼は俺がこの部屋から出ようとしているのだと勘違いしたから。しかし、どうして逃げようとしていたところをみたぐらいで彼があんなにも怒ったかはわからない。

どうせ。

どうせ俺なんて、ただの奴隷にしか思っていなんでしょう?

そう思うとなんだか悲しくなる。別にあんな男どうでもいいのに。しかし、俺の頭の中にいるたった一人の人物、もう俺の世界には彼しかいないのだ、コンラッドしか。

ごろりと寝返りを打つと、胸の下でゴリっと骨に当たるものがあった。

魔石、魔石だった。

彼が突然好意を強いてきたから、あの時つける時間はなかったはず。そう考えると、俺が気を失っている間にコンラッドがつけたようだ。そんなに意味があるものなのかな、そう考えて俺は魔石を握ってみる。なんだけか硬いのにやわらかくてほのかにあたたかくかんじた。その感覚は、どこか懐かしくそれでいて新鮮で俺の頭を混乱させる。考えれば考えるほど自分の存在自体が怖くなって、すがりたくても目の前にはコンラッドしかいなくて。どうしようもないのに、頭に浮かぶのはコンラッドが微笑んだ瞬間の彼の顔と、自分が味わった奇妙なデジャヴのような感覚。

コンラッドのことばかり考えてしまうのは、俺がコンラッドのことしか知らないからなんだ。

何度も無意識に自分にそんなことを言い聞かせるのは必要以上にコンラッドを意識しているからなのかもしれない。

何で?

自分に問いかけてみても解決に導いてくれる情報など頭のどこにも存在していなかった。

しかし、昼間よりはだいぶよくなったと思う。あの時はどうしようもないぐらいだったから。

頭の中は混乱するばかりで何の解決にもならないし、まともにコンラッドの顔を見れないほどどきどきして。自分はどこかおかしくなってしまったのかというぐらい心臓のペースは跳ね上がり、コンラッドの笑顔が目に焼きついて離れなかった。

だって、いつもよりも彼は。

優しく笑っていたから。きっとコンラッドの本当の笑い方はああなのではないだろうか、直感で俺は思う。誰からも愛されるような、誰でも心を許してしまいたくなるような笑みで彼は笑ていた。もちろんそれは、俺も例外ではない、のだと思う。

だけど、それを考えるとどうしていつも彼はあんなに苦しそうでうそ臭い笑みを浮かべているのだろうか。分からないから、俺は一体どうしたらいいか分からない。大嫌いなはずなのに、コンラッドにどこか懐かしさと親しみ、笑顔へ安心感を覚えている自分がいる。

それはとても、許しがたかった。

こんな自分がとてもいやだった。

女のように抱かれて。しかもその状況を何とか認めたところでそれをしいている男の事を思うなど自分が男としてひどく間違っているような気がする。それに、そんな自分がおかしいと思う。ひどくいったら、変態なのではないか、とさえ思う。

だけども、コンラッドのことを気が付けば考えている。

おかしい。

こんな自分なんておかしい。

異常だ、狂ってる。

嫌いなの、コンラッドなんて。嫌い嫌い嫌い嫌い嫌いだ!!!!!!!

昼間、混乱した自分は、笑顔でかけられたこのペンダントとなっている魔石を握り締めてはコンラッドがあんな顔をした理由について今と同じように考えた。答えが出ないことぐらい分かっているのに、それなのに俺はそのまま考え続けて。

しかし、案の定答えは出なかった。

そして、腹いせに投げたのだ、それを。

この手につかんでいた、魔石を思い切り、投げつけたのだ。すると運悪く、魔石が飛んで言ったのは窓のほう、そして偶然が悪戯を仕掛けてその窓は開いていて。魔石は窓の外近くの木にちょうど引っかかっていた。コンラッドのことは大変腹が立つ。しかし、もともとは俺の持ち物だったというこの石に何の罪もないのだからとにかく取り戻さなくては!

俺は必死に窓に脚をかけて手を伸ばし、魔石を取ろうとした。しかし、届きそうで届かなくて何度も窓から落ちてしまいそうになりながらもやっと皮でできた紐をつかんだと思った瞬間。

コンラッドがやってきた。

そして、確かに事情も知らずにみたら逃げ出そうとしているとしか思えない俺に、案の定勘違いをして腹を立てたのである。

弁解など、とおりそうにもない瞳でただ残酷に、俺を抱いた冷たい手のひら。あの時もう俺は、一切の抵抗さえ馬鹿らしく思えただなきながらそれに耐えた。

もう、彼に抱かれることにひどい抵抗を感じない自分がいる。おかしいのに、男が男に抱かれているなんておかしい話なのに。

俺は一体どうしたんだろう、異常なのか?普通ではないのか?

悩んでも答えはない。

ただ、頭にひらめくのは、コンラッドの優しい笑顔ばかり。

少しでも、それをかっこいいと思ってしまう自分。それを否定したい自分。いろんなものが混ざり合って絶えずこぼれるのは涙の出ない嗚咽だけ。

そして、何より耳に残る聴きなれない言葉。いつこんな言葉を聴いたかは分からない。だけど、はっきりとコンラッドの声で愛してるよ、ユーリ、と明確に。

彼が俺を愛している?そんなはずがない。

じゃあ何でこんな言葉を知っているの?そして、とても懐かしく感じるのはどうして?

もう俺は、ただひたすらに泣くことでしか混乱と不安でたまったストレスを発散できなかった。

 

もしも、彼が本当に自分を愛しているのなら、俺は・・・。

 

 

 

しばらく、失意のうちにただ抱かれるだけの生活をだらだらとこなし続ける。

今日も、いつものように風呂に入ろうかと思い浴槽まで足を運んだ。何もかもいつもどおり、このあとまただかれるんだと思うと自分のおかれている状況に対する感覚が麻痺してくる。

しかし、そのままじゃいけないと思って彼に何かしら逆らってみようかと思ったのだが、何一つ案など思い浮かばなくて湯船に浸かったまま考え事にふけった。しかし、一向に何かが思いつくということもなく時間だけが刻々とすぎてゆく。

なんだか、風呂から出たいと思わなくてしばらくそのままでいようと思う。温かいお湯はコンラッドの指よりも俺の体を優しく包んでくれるから。

目を閉じると涙が出た。理由は分からないけども、止まらない涙はぽつぽつと浴槽の中に流れ落ちてく。

そんなとき。

 

「ユーリ!!!!!」

 

コンラッドの慌てたような声がいきなり響いた。

 

 

END・・・?

 

 

はい、今回は挿入というか気持ちだけみたいな感じで短めにいきました。更新遅らせてまで書いたのに、ストーリーに何の進展もなくて申し訳ないっす・・・(涙)一応、ACT.4のほうのユーリ側の事情みたいな感じで。向こうだけしか読まないとよく分からんことを明かしてみようかと・・・。ううん、なんかあんまりいい効果がでていないなぁ・・・

なんか続いてますね、ちょっと先が気になると思いませんか・・・?(笑)一応、ACT.5への投げかけみたいなやつですよ~