踊り狂うよ貴方と共に Episode1.キャンドルの灯− 1 夜のとばりもおりたころ。部屋の中は闇でいっぱい。 ここは眞魔国、血盟城の一室魔王陛下の部屋。電気のないこの世界の主な明かりはロウソクにともした炎だろう。 「これ、マッチみたいなもん?」 魔王こと、ユーリは傍らで火をつけている背の高い男に訪ねた。手に持っているのは火をつけるための道具。 「ええ、そうですよ」 地球を訪れたことのある彼は、ユーリのいうマッチというものを頭に思い描きながら答える。 この世界に飛ばされてからもう随分たつが今まではロウソクの火は自分が食事から帰ってくるとつけられていたから詳しくは知らなくて。 今日は夜中に突然消えてしまったので一番頼れる人…ウェラー卿コンラートに救いを求めた、ということ。 「そのまま寝てもいいかなあって思ったんだけどさ…」 ユーリはその言葉の後に恥ずかしそうにちょっと怖かったんだよね、と付け足す。いつもとなりにいるはずのヴォルフラムも今日は自分の城に帰ってしまっているし。 それを聞いたコンラッドはクスリと笑ってそれは大変でしたね、と言った。 ユーリとしては馬鹿にされたような気分になってぷいと唇を尖らせ、ゆらゆらと揺らめくロウソクの炎を見つめる。 「あちらのロウソクにも付けます?」 コンラッドはユーリを怒らせたかなと苦笑しながらベッドの反対側にあるロウソクをさしていう。ユーリは首を横にふるともう平気と微笑んだ。 しみじみと明るいオレンジ色の炎を見ながらユーリは小さく息をつく。 「ロウソク一本だけでも結構明るいんだなー」 呟くとコンラッドが隣でそうですね、とかえしてくれた。 優しい光はベッドのあたりをぽぅ、と鮮やかに照らす。二人の影はろうそくの揺らぎと共にぼやけたり傾いたり。 炎を見ているとどうも思い出ばかりがよみがえってくる。隣のコンラッドと過ごした記憶ばかりなのはこの国にいるときコンラッドはいつもユーリの隣にいてくれるからだ。幸せな記憶が多くてつい微笑んでしまうことも。 少し無言のまま時が流れる。このまま座っていて、この灯を眺めるだけで幸せなんて思ってしまう。 無言の空気にユーリはとうとう気恥ずかしくなってあわてて口を開く。 「あっ!さっきは起こしちゃってごめんな!」 ユーリは夜中にいきなり部屋をたずねたことを謝る。 ひどく淋しい感じがしてとても怖かったから。気が付くと一番信頼できて優しくてかっこよくて… そこまでユーリは考えて顔を真っ赤にして思考をとめる。 うー・・・俺、駄目だ・・・。本当にコンラッドのこと好きなんだ・・・。 「とんでもない、起きてましたし…ユーリ?どうしました?」 顔が赤いですよと言われ、ユーリはうろたえるばかり。 「あ、赤くなんかないよ!ほら、ろうそくの光が顔に当たってるだけだって!」 ばれてる!とユーリはさらに赤くなる。必死に言った言葉も余計に自分を深みにはまらせるだけ。 ばれたら、まずい。コンラッドだって男の俺に好かれたってうれしくないだろう、とユーリは思う。自分だっていきなり男から好きだなんていわれたら多分困る。そんなことを言われてうれしいのは、目の前にいるコンラッドからの言葉だけだ。ユーリは必死にその思いを沈めようとがんばる。 ユーリの明らかに誤魔化しである台詞にコンラッドは意地の悪い顔をして言う。 「俺のことでも考えていたんですか?」 その言葉にユーリは慌ててそんなわけないだろ!と叫ぶ。 酷く図星でユーリは今すぐ穴があったら入りたいような気分に陥る。コンラッドとしてはユーリのそんな姿さえかわいくて。 「ユーリ」 うつむいているユーリに呼びかけると真っ赤なままの顔で何?と聞き返してくる。 いきなりコンラッドは自分の唇をユーリのそれに押し当てた。たった一瞬の出来事でユーリは初め一体何が起きたか理解できなくて何度か瞬きしたが、コンラッドが自分にキスをしたことに気づくとあわてて何してんの!と叫びだす。 「好きです」 ひどくまじめな顔をしてコンラッドは言うのでユーリはついコンラッドから目線をそらした。銀の散る彼の瞳はまっすぐで誠実だったから。 コンラッドはもうどうしようもなかったのだ。 自分が仕えるべき陛下はまだ若くて、この国では考えられないような考えの持ち主でとんでもなく優しくて、愛らしくて。 幼いユーリを抱きしめたあの日から惹かれていたのは間違いないが、恋をしていると自覚したのはつい最近のこと。 理解してからは欲望とは勝手なもので、暴走を続けるばかり。 主に抱いてはいけないはずの感情。 でも、この身体を抱きしめたい、とコンラッドは切に願うから。 「・・・っ」 ユーリは黙ったままうつむく。もてない人生を送ってきたユーリにとって「好き」なんという言葉は友達としてしかいただいたことがなかった。キスまでして伝えられたのは初めてのこと。 さっきそのことを考えていたから心を見透かされたようで戸惑うしかないが、もう答えなんて出ている。 一番ほしかった言葉。俺でいいの?と何度も問い正しかったがそんなことでもして取り消されたらいやだ。 俺もコンラッドが大好き、ユーリは目を閉じる。 気がつけば目で追っているし、優しい笑みに助けられた回数は計り知れない。それでも、自分は男であってコンラッドも男。この告白になんて答えるべきか検討もつかないのだ。 ユーリが黙っているので、コンラッドはあわてて謝る。突然変なことを申し上げてすみません、と。 だが、ユーリはその声に大きく首を振るとコンラッドの身体にしがみつく。抱きつくなんて恥ずかしくてできないけど、ユーリの精一杯の気持ち。 もしここで冗談なんですがといわれたら、なんて考えが頭をよぎったけどもうどうしようもない。とにかく、顔は上げられないし自分からすきという勇気もないけどもユーリはぎゅっとコンラッドの服を握った. 「ユーリ・・・」 コンラッドの小さな呟きがかすかに聞こえた。恐る恐る顔を上げるとそこにはいつもどおり微笑むコンラッド。 何故かユーリは無性に泣き出したくなるような思いにとらわれる。 この人が好き、間違いなくそう言い切れるぐらいコンラッドに惹かれている自分。 「どうして泣きそうな顔をするんですか?」 「・・・わかんない・・・。でも、すっごくうれしくてさ・・・」 好きだと言い返せない代わりにつむぐ言葉。 突然、コンラッドの温かい腕に包まれる。抱きしめられていると分かるととても幸せな気分になる。少し、恥ずかしいけども、コンラッドの腕の中はとてもとても居心地が良かった。 ユーリ、ユーリと何度も耳元で名前を呼ばれて。熱がこもった声は耳をくすぐるのでたまらない気持ちになる。 甘酸っぱいような気持ちが胸にあふれてきて、ユーリもそろそろとコンラッドの背中に手を伸ばし抱きしめた。 「・・・コンラッド・・・」 ろうそくの炎だけが唯一の明かりのこの部屋。 抱き合う腕は温かくて安心できる。身じろぐごとに響く布ずれの音は自分たちが抱き合っていることを強く物語っている。 To be continued… |