06
: 瞬きの時間、この広い世界に、二人きり。 二つの世界を共有する俺にとって、理解者は一人、横で笑っているウェラー卿コンラートだけだった。 世界は広くて気が狂いそうになるけども、あんたはそこで笑っていてくれるんだ。 空は見渡すかぎり、快晴だった。 俺は、空を見上げたまま白過ぎない雲が流れてゆくさまを呆然と目で追うだけ。耳に自然に流れ込んでくるのは小鳥のさえずりと子供たちのはしゃぐ声。 地球は、眞魔国と違って空気が澄み渡っていないけども長年住み慣れているからこれが俺にとっての当たり前。全開の窓から見える空はやはり綺麗だと思った。 こんな日に、涙など似合わないと思った俺は小さく微笑んでみる。 我ながらひどく気色が悪い。だが、それでもいいのだ、こんな空の下なら。何をしたって許されると思うんだ。 俺は地球人で、日本人で、埼玉県民。 今まで、自分が生きている世界なんてこの広い広い世界のほんの一部分に過ぎない環境だった。テレビで他国の戦争だの事件だのを聞いたってまったく人事にしか思えないぐらい広い世界。 しかし、突然告げられた俺のもうひとつの世界。そこで味わったものは、夢のような御伽噺と信じられない驚きの真実、そしてめくるめく愛で。 それらがあんなにも現実だと知らされた今となっても地球でこんな風にぼんやりと考え事をしているとまるですべてが夢だったような錯覚にさえとらわれてしまう。 それでも、夢ではないのがこの胸に残る痛みで。 そんな時、瞬きをしてみる。 まぶたの裏真っ黒な世界に映るのはもう長い間あっていないはずの彼の顔。目に焼きつくほど眺めてしまったからだろうか。 そんなはかない残像の中でも、コンラッドは優しく微笑むのだ。そのたびに昔の感覚がよみがえる。そして、なる。 まるであんたと二人きりでいるような気分に。 涙は眼を再び開いた瞬間にあふれてきた。 END 短い。残像って一体どういう仕組みで頭にはびこるのか。 友達の顔なんて思い浮かべてみても一体どこにそれが映し出されているのが分からない・・・。 でもきちんと分かるんだよなぁ、不思議。 |